建築家って決してデザインセンスだけを目標にはしていません。依頼者であるあなたの大切なお金をあなたと同じような気持ちを持って、いかに有効に使うか、いかに無駄な出費を押さえ、限られた予算の中で最高のものを創るかを常に考えています。ですから実施設計が終わり、入札で工務店から見積もりがでて予算オーバーといった場合など(一般的には建築家は常に予算を頭にいれ設計を行いますが、あなたからでる要望もできる限り叶えてあげたいという気持ちも常にもっていますし、予算よりは少し上の線を狙って、納得の上、諦めるべきものはあきらめるかたちをとりたいとも思っています。また一旦、予算上から諦めたものでも、工事中にもとの仕様に戻したくなった場合等、最初に出た見積り金額のほうが、改めて追加見積りをとる場合より安くなるのは目に見えていますから少し上の線を狙っているのです。 中には自分のデザインや考えを優先して予算が飛んでしまって暴走してしまう人も中にはいるようですがそんな人は論外として)切り捨てなければならないものが出てきます。そんなときあなたと同じ悲しい気持ちを設計者も自分のことのように共有します。そんなナイーブな心を私を含め、ほとんどの建築家は持っています。
また、私は建築家とう言葉を用いてきましたが、だからといって、別に一段高い位の人間だとも思いませんし、人からの呼ばれ方は設計士さんでも設計屋さんでも図面屋さんでもかまわないのです。ものを創る立場において、自分の仕事に、だれにも負けないその道のプロとして技術と誇りを持った職人さんや現場監督と対等の立場でものごとを考えたいと思っています。依頼者であるあなたとも、同じ社会で生活する一人の人間として、対等な立場で接したいのです。みんな同じ社会で、ぎりぎりの線で生活し、いつも不安な気持ちは持ちつつも、人生は楽しく幸せでありたいと願っている同じ生活者なのです。そんな技術と誇りを持った 本当の意味での職人さんたちを現場でみると逆に尊敬せざるをえません。いろいろなことを学び、教わりました。知識だけでは現場はできません。私は設計のプロであり同じ設計に関する職人なのです。
よくありがちなことですが、その設計に起因があるのに、なんでも施工が悪いためだと責任を転嫁してしまう事は最低な事です。
同じプロとして自分の責任であれば、キッチリ責任をとる覚悟をいつも持っています。たとえ設計料がゼロになったとしても。
しかしそんな職人さんたちと同等な気持ちをもっていて、きちっとした監理ができるの?と思われる方もいるかもしれませんが、お互いその道のプロである以上、自分の仕事の範疇には、厳しさをもっています。現場一品生産の人間がやる仕事です。ときには一生懸命努力している状況でもミスはでます。
でもミスを指摘されれば、みんな素直に直してくれます。恐いのは職人がミスをミスとして認識していない場合です。そんな場合は、どうして悪い
のかという事をとことん説明して、理解の上、直してもらう事が必要となります。ですから、現場に、こまめに足を運べば、見落としてしまいそうな、こうしたミスは格段に少なくなるのです。また、各工程の施工前に、どういう事に注意して、どういうやり方で、どう納めるのかのお互いの意思疎通を図っておけば、手戻りやミスは少なくなり、それは職人さんにとっても良いことなのです。表面上や仕上げ等の目に見える問題は、あとからどうにでも手直しはききます。でも構造的な面や、設備配管など隠れてしまう部分には、手直しがきかないのです。
ですから、監理の仕事も設計と同じくらい大切な仕事なのです。またどんな優れた設計であっても、細かな納まりやディティールが考えられていなければ、それは単なる絵に過ぎません。「形とイメージはこうなんだけど造り方はそっちで考えてね。」では、監督や職人がかわいそうです。自分自身の納め方やディティールを考えたうえで、現場でやる監督や職人と「こうするよりも、ああした方がいいんじゃないのか」とかの意見交換があって決めていくものなのです。ですからたとえ小さな住宅であれ20枚そこそこの(20枚もあればまだましか)図面であとはまかせた。では良いものもできるはずありません。ましてやそんな図面で設計施工であって、現場監督が常駐するならまだしも、監理者不在の現場では、どうなるか目にみえています。仕上げの目に見える部分に関しては、きれいにできれば素人には分かりません。監督がいなければ職人さんたちも自分の範疇の部分だけ納めればよいわ、という感覚になってしまいます。建築には、異職種同士の納め上の取合いケ所がいくつもあるのです。お互いの連係がとれなくて、打合せもできなければ、職人は聞きたくても勝手に判断してやっていくしかないのです。
優秀な現場監督や、すべてを統括してくれる大工の棟梁でもいればまだ良いのですが、実際には住宅レベルでは、右も左も分からない20台の図面も書けないような材料手配係り化している監督さんがほとんどなのです。職人さんは、誰の指示も受ける事が出来ず、自分の判断で、自分の範囲の仕事だけ、自分のやり方でやるしかないのです。隠れてしまう部分であれば、間違いがあっても分からないのです。欠陥住宅が増えるのは、当然のことなのです。
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